2014年5月6日火曜日

【第20回宮崎映画祭上映作品その6】『生きるべきか死ぬべきか』

1939年ポーランド。その9月にナチスドイツのワルシャワ侵攻で幕を開ける第二次世界大戦は、様々な殺戮を繰り返した、20世紀最大の事件であり、悲劇であるということに異論のある人はそんなになかろうと思います。この作品は、そんな時代のワルシャワを舞台にしたある劇団の、レジスタンスと脱出を描く喜劇です。


アメリカでの初公開は1942年。その内容が、あまりに敵国であるドイツを喜劇的に描いたものであるために非難が噴出したといいます。
このような世相は、古今東西、今も昔も変わらないわけですが、そんな事情からすぐにこの作品はいわゆる「オクラ」に入れられてしまいます。長らく知る人ぞ知るブラックコメディのカルト作品という扱いでした。メル・ブルックスは1983年に『メル・ブルックスの大脱走』の名前で発表した作品は、このルビッチの忠実なリメイク作品です。


日本ではテレビ公開作品として一度だけ『お芝居とスパイ騒動』という小洒落た邦題で放送されているようですが、正式な劇場公開は1988年になります。
「リュミエール」という80年代後半を席巻した映画雑誌の連動企画という形で、筑摩書房から発売されたビデオの中にこの『生きるべきか死ぬべきか』がチョイスされることになります。そして公開されるや、その面白さにたちまち多くの映画ファンが虜になりました。
かくいう筆者もその一人ですが、バブルがはじけると同時に何故か劇場ではお眼にかかることがなくなってしまった。筆者の記憶では92年に福岡で見たのが最後だと思います。


筆者が映画祭に関わることになり、プログラムを選定する際、実は必ず念頭にあったのはこの『生きるべきか死ぬべきか』です。機会あれば上映しようと決心していましたが、上映用のプリントが見つからない。
ところが今年になって、ようやく小さい上映会や、比較的大きな特集上映でこの『生きるべきか死ぬべきか』の名前を見つけるようになりました。聞けば、それらの上映プリントは個人で入手してオリジナルの字幕を付けているのだそうです。う~ん、そこまでの情熱はなかったな。
想像するに、やはり80年代後半に『生きるべきか死ぬべきか』の面白さに撃たれてその人生が変わった人がいるのでしょう。多分、こう呟いている。「まさか映画のプリントを買って、自分でそれを上映するとは思わなかったな」と。


この映画は抜群に面白い。しかもその面白さたるや、人の人生を変えるような、いわば危険な面白さに満ちています。20世紀の悲劇と、シェイクスピアの大悲劇、この二つが20世紀最大の喜劇に変わっているわけだから、これは誇張ではないと思っています。
是非、ご高覧下さい。

0 件のコメント:

コメントを投稿