第20回宮崎映画祭上映作品ラインナップ第1弾を発表しました。
本日より、宮崎映画祭実行委員会ボランティアスタッフの面々に交替で上映作品を紹介してもらいます。まずはこちらの作品から!
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1991年12月。広島のある民家から映画上映用のフィルムが出てきます。
本日より、宮崎映画祭実行委員会ボランティアスタッフの面々に交替で上映作品を紹介してもらいます。まずはこちらの作品から!
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1991年12月。広島のある民家から映画上映用のフィルムが出てきます。
フィルムを知っている人ならわかるでしょうが、石油製品である映画上映フィルムというやつは経年と共に黄ばみ、縮み、硬化していき、最後はフィルムとは言えないような状態になります。幸いこのフィルムは劣化が激しかったようですが、映写機には掛けれないものの、慎重に扱えば編集機での確認はできるレベルであったようです。
本来ならばこのようなフィルムは廃棄物でしかないでしょう。
しかし、この民家の方が映画に詳しいかたであったのが幸いして、広島の映像ライブラリーに持ち込まれます。理由はそのフィルム缶に書いてある文字でした。書かれていた文字、それは『忠次三部曲』。
©日活
ここで1990年までの『忠次旅日記』をめぐる状況を説明しておきます。
三部作として知られる『忠次旅日記』は1927年にそのすべてが公開されています。
第一部「甲州殺陣篇」が3月、第二部「信州血笑篇」が8月、完結編である「御用篇」が12月。当時のキネマ旬報では第二部がベストワン、完結編も第4位という高い評価を与えられました。
批評家たちはこぞって絶賛し、観客はその続編を今か今かと待ちわび、そしてほかの映画作家たちはこの語り口に魅せられて…、とそういう映画であったわけです。
ちなみに1959年に行われたキネマ旬報の「日本映画を六十年を代表する最高映画ベストテン」では二位の溝口健二『祇園の姉妹』、三位の小津安二郎『生きてはみたけれど』を押えて堂々のベストワンになっている。
しかしながらと書かねばなりません。上の「最高映画」の中で、溝口健二『祇園の姉妹』、小津安二郎『生きてはみたけれど』は見る事が出来る状況が維持できていたものの、『忠次旅日記』は見る事が出来なかったのです。
どういうことか?
いろいろな状況があったでしょう、戦争、火事、配給と興行の杜撰な管理、
そしてなにより映画というメディアは後世に引き継いで保管するような代物ではないという当時の認識、これらの事由により『忠次旅日記』はその上映できるプリントがないと結論付けられており、いわゆる「幻の映画」であったのです。
そして数多くの映画批評家が、この映画を探し求めていました。
もちろん、それはそうでしょう。戦後の第二世代以降の映画批評家が、例えば『七人の侍』を褒めそやそうが、「けどお前さん、『忠次旅日記』をみてねえだろう?」といわれれば、何の反論もできないからです。
©日活
そんな映画が突然、広島に出現したのです。
広島の映像ライブラリーはもちろん、東京のフィルムセンターも「忠次かも知れない」と聞いた時、どのような言葉も発する事が出来なかったといいます。こうして東京に持ち込まれた8巻もののフィルムが、『忠次旅日記』であると同定されるには、さらに慎重な作業が必要とされます。
まぁ考えてみてください、我々は映画を見るとき、例えば『スタートレック イントゥダークネス』や『マン・オブ・スティール』を見ている時、これらは本当に『スタートレック イントゥダークネス』や『マン・オブ・スティール』なのか?、などと考えないでしょう。
しかしある一本の題名も知らない、登場人物も知らない映画を見せられて、これがどうして『スタートレック イントゥダークネス』や『マン・オブ・スティール』だと判断するのでしょう? なんとも厄介な仕事です。
実際のところ、『忠次旅日記』であるとの同定(「発見」であると言い切ってしまいましょう!)、そして上映可能な状態にまで持っていく復元作業は、一本の映画が出来るほどドラマに満ちたものであると聞いています。
©日活
こうして1992年10月10日に『忠次旅日記』は甦りました。
もっともこのフィルムは欠落も多いことも知られてします。甦った作品は第二部「甲州血笑篇」の一部と、完結編「御用篇」の大部分であることが現在わかっています。
したがって本作を見て『忠次旅日記』を見たとは、本当の意味では言えないかもしれない。しかしここは声を大にして「それがどうした」と断言したい。かつてフランスのシネマテークの館長が云ったように「ミロのビーナスに腕がないからという理由で傑作じゃないとは誰も言わないじゃないか」と。
映画が好きな人に支えられて発掘・復元された映画史上の傑作を、映画が好きな人に支えられて第20回を迎えることになる宮崎映画祭で上映することができる。
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